WEBコラム〈6〉NPOのコーディネーターは面白い!?
NPOのコーディネーターは面白い!?
新居みどり
特定非営利活動法人 国際活動市民中心(CINGA) コーディネーター
NPOではたらくということ
NPO法人国際活動市民中心(以下CINGA)でコーディネーターとしてはたらき始めて9年が経ちました。内閣府によると全国には5万以上のNPOがあるそうで、「平成29年度特定非営利活動法人に関する実態調査」によると、職員がいる団体は約半数、常勤有給職員となるともっと少ないようです。
NPO法人CINGAでのわたしのはたらき方も、会員としてのお手伝いから始まり、アルバイト、非常勤職員、そして常勤有給職員へと、NPOとしての事業規模の拡大に伴い変化してきました。思い返せば、他の仕事を辞めて、CINGAで常勤コーディネーターとしてはたらくと決めた時は不安しかありませんでした。
しかし、市民活動・非営利セクターであるNPOで、覚悟を決めて真剣に仕事をしてみて、いま思うのは、NPOにてコーディネーターとしてはたらくって面白い!ということです。 多文化共生を目指すNPOについて、そして、コーディネーターという仕事について、その面白さをお伝えしたいと思います。
多様な人がかかわることの面白さ
CINGAは多文化共生社会の実現を目指し2004年に設立された会員数50名弱の小さな会です。このNPOの特徴は3つです。ひとつは、全会員は外国人支援や地域日本語教育、国際交流協会関係者など多文化共生分野にかかわる専門家であるということ。2つめは、社会問題に即して立ち上げるプロジェクト(事業)に、多様なネットワークを活かし集まったメンバーが参加し、対等な関係で活動すること。3つめが、すべての事業にコーディネーターがいることです。
CINGAの面白さの一つに、専門家集団であることによるグループダイナミックスが挙げられます。同調圧力が高いといわれる日本社会ですが、CINGAのプロジェクト会議や総会などは、「わたしはそうは思わない」といった発言がどんどん飛び出していきます。
多様な専門性や経験を持った人々が集まれば、一つの事象も多様な捉え方があると思います。多角的な視点での議論は、時に混乱を生むときがありますが、その混沌こそが新しい考え方や仕組みを生み出す土壌である思います。そのようなダイナミックな議論を生み出すために、コーディネーターは場を設定し、議論をファシリテートし、その議論の中から、プロジェクトの核を据え、新しいやり方・仕組みを作っていくことが求められます。
参加した人と共に振り返る
市民活動は、社会問題に対して、迅速かつ柔軟にプロジェクトを立ち上げ対応していくことができます。スピード感を持って対応していくことは大事でありますが、時に実行することに力点を置きすぎることがあります。だからこそCINGAでは、事業終了時の「振り返り」を 大切にしています。
CINGAが設立当初から自主事業として実施している「外国人のための無料専門家相談会」事業があります。ここ5年ほどは、都内の「多文化共生事業論」をもつ大学と協働し、授業の一環として相談会当日に数名の学生さんを受け入れています。この事業は、外国人相談の専門家と通訳者が一堂に会し、そこの会場を訪れる相談者へワンストップ型で相談対応するものです。学生さんたちは、チラシ配りや相談者の案内などをしてくれます。
1日がかりの事業が終わるときに、参加者全員で振り返りをします。その場に参加したすべての人が一言ずつ感想や意見を述べるのですが、時に、学生さんからはっとするような感想が出てくることがあります。振り返りでは、そこに参加したすべての人の役割と存在を表にし、活動への労を皆でねぎらうとともに、実施後の意見や問題を共有し、次の事業をどちらの方向へ出すのか、その「最初の一歩」を決める作業でもあると考えています。この振り返りから、「学生のための相談会」や「完全オンライン型相談会」などのアイディアが生まれ、実行されました。
この振り返りという行為は、ドナルド・ショーンの示す「省察的実践」であり、専門職の専門性向上のあり方とも一致するものであると思います。
コーディネーターにこだわる
社会的な課題を追求し、それを越えていくための事業を「思い」に共感し、参加してくれる人と共につくっていく仕事、それがコーディネーターであると思います。
時々、マスコミなどの取材を受けた時に、役職はなんですか、と聞かれることがあります。その時、わたしは「コーディネーター」ですと必ず答えるようにしています。その役割が一般的にはわかりにくいとか、名称が長いとかの理由で「理事」でいいですかと、記者さんからいわれることもあります。しかし、その言葉の扱いにくさも含めて「コーディネーター」にこだわっていきたいとわたしは思っています。
CINGAのコーディネーターは少しずつ増えてきて、現在8名います。それぞれのプロジェクトで多様な人びとの参加を促し、事業をつくり、活動を振り返りながら事業を展開しています。定款に理念をかかげ、その実現に向けた事業を行う、「思い」をもった「組織」であるNPOにおいて、コーディネーターは必要不可欠な存在であると思います。
そのような中、CINGAの初代コーディネーターからいわれたことがあります。それは、 「若い人を大事にすること」。どれだけ仕事が忙しくても、学生さんの訪問や意見交換は大切にし、一人一人にしっかりと時間を設けること、これはコーディネーターとして、大切にしています。
新しいはたらき方としてのコーディネーター
社会が変容する中、人のはたらき方も多様になっていると思います。その中で、最近、市民活動セクターであるNPOで仕事したいという方からの問い合わせをいただきます。
新公益連盟の「ソーシャルセクター組織実態調査2017」では、NPOでリモートワークの導入率は、一般企業が11%なのに、NPOでは64%とのこと。もちろんCINGAも2011年からリモートワークを取り入れてきました。新型コロナの感染拡大の中でも、新規事業を大規模展開ができるのは、そのような新しいはたらき方をいち早く広く取り入れ、推進してきたからだと思います。
また、CINGAの常勤職員は全員女性です。世の中で女性の活躍が謳われる中で素晴らしいことです。しかし、これは仕事の不安定さを表し、ジェンダー問題のひとつの現れでもあると思っています。NPOで生活を営める給与を得て、仕事をしていく人が増えていくよう、環境を整え、持続可能なはたらき方を自ら実践していくことも大切だと思っています。
終わりに
東京外国語大学多言語多文化教育研究センターにて、長く「多文化社会コーディネーター」について研究がなされ、わたしもその研究に参加させていただきました。そこでは、コーディネーターの専門性について、「知識・実践知」「価値観・態度」「実践力」の3つから成り立ち、その「実践力」については、「基礎的実践」「中核的実践」「実践の『わざ』」として技能・能力が整理されています。
わたしは、その「実践の『わざ』」をいつも心に留めて活動をしています。それは、「ひらめきと推量の長い道筋をつむぎだす能力」「探求の流れを中断することなしに同時に複数のものの見方を保つ能力」というものです。
そしてもう一つ、僧侶の友達から言われたひとこと、「はたらく」とは「端(はた)が楽(らく)するということ」の精神を大切にしています。これからもNPOで、ひらめきを大切に、長い道のりを多様な視点をもって、社会に生きる人が少しでもらくになるよう、仲間たちとたのしく仕事をしていきたいと思っています。