WEBコラム〈21〉佐賀県の地域日本語教育に関わって思うこと~佐賀県日本語学習支援“カスタネット”の活動とともに~

佐賀県の地域日本語教育に関わって思うこと
~佐賀県日本語学習支援“カスタネット”の活動とともに~

貞松 明子
佐賀県日本語学習支援〝カスタネット″サポーターズ担当

 
 遡ること13年前の2009年の秋のこと、佐賀県国際交流協会主催の日本語ボランティア養成講座の講師を務め、新しい日本語教室を立ち上げた後、当時の協会の担当者を相手に私はぼやいていました。「ボランティアさんに初級者を相手にしたときの教え方を伝えたつもりだったのに、なかなか上手くできない。中級者相手にはとても素晴らしい活動ができるのに。」担当者は「それは無理でしょう。ゼロ初級者には別の入門講座が必要ですね。」と言われました。でも、県内広域での実施は無理、とも言われました。そこで私はその思いを後のカスタネットの代表池上順子さんに伝えると、佐賀市国際交流協会の馬場三佳さんを紹介してくれました。馬場さんは私の想いを汲んでくれて、同僚の有瀬尚子さんと共に「初級日本語集中講座」の実現に向けて走り出しました。最初にヒントをくれた当時の佐賀県国際交流協会の担当者は北御門織絵さん、現在の佐賀県国際課多文化社会コーディネーターです。

 年が明けて2010年2月末に佐賀市国際交流協会の事業として第1回「初級日本語集中講座」を開講することができました。手作りの教材を使ってのゼロ初級者対象の36時間の講座は、現在まで休むことなく(年に3回から5回)続いているカスタネットの柱となる活動です。
 
 佐賀市で「初級日本語集中講座」を続けていくうちに、県内の他地域でもできないか、と思うようになりました。集中講座での学習後には地域の日本語教室で学びを続けてもらう必要がありますが、その日本語教室が佐賀県内にあまりにも少ないことに気付きました。
 
 また、当時日本語がわからない子供たちが増えていることにも気が付きました。私は年少者に対する日本語教育は門外漢でしたので、来日間もない留学生の子どもに教える体験などを通して感覚を掴み、県や市の教育委員会に話を聞きに行ったりするようになりました。既に年少者日本語教育を研究していた同僚の早瀬郁子さんも一緒に進んでくれることになり、カスタネット立ち上げの準備ができました。

 2011年1月に「佐賀県日本語学習支援“カスタネット”」という任意団体をメンバー5人で立ち上げました。名前の中に「佐賀県」と入れたため、県の団体と間違えられることもありましたが、それは「佐賀県全体を見て活動する」という決意表明のつもりでした。そして活動をするために文化庁の「生活者としての外国人」のための日本語教育事業に応募して、2011年の春以降、いろいろな活動を始めました。佐賀市以外の地域での「初級日本語集中講座」の開講、日本語支援ボランティアの養成、外国につながる児童・生徒へのサポート体制づくり、教材作成などです。メンバーそれぞれの専門を活かして、協力し合い、多岐にわたる活動をこなしていきました。

 カスタネットが行ったことの一つは、空白地域に日本語教室を作ることでした。地域日本語教室は「外国人が日本語を学ぶ場所」と思われがちですが、それだけではありません。「地域の国際交流の拠点」「外国人と日本人の出会いの場」「みんなの居場所」といろいろな側面を持っています。2012年度には、県内4か所の空白地域に「出前講座」と称して出かけて行きました。その中で興味を持ってくれた方々に県の中心部にある佐賀市で「連続講座」を開講して受講してもらいました。各地域から集まってくれた方々がリーダーとなり、空白地域で日本語教室活動が始まりました。“あと一歩”という地域では更に翌年「日本語教室立ち上げ講座」というものを開講して、教室開設にこぎつけました。ある程度県内の空白地域が埋められたところで、新しく作るよりも活動中の教室を支えることが重要と考え、「日本語教室活性化フォローアップ講座」を2015年より始め4年度続けて4市で開講しました。
 
 2016年度より文化庁による「日本語教室空白地域解消推進事業地域日本語教育スタートアッププログラム」が始まりました。佐賀県では国際課の後押しもあり、現在まで次々と市町が手を挙げています。カスタネットという一任意団体がしてきたことを、文化庁の支えで自治体が行うという素晴らしい展開となりました。スタートアッププログラムの下地を作ってきたという自負を持って、カスタネットの日本語教室を作る活動は終わりにしました。でも私自身はいろいろな市町からコーディネーターとしてお声掛けいただいて、県内各地に日本語教室を作る活動は続けています。
 
 さて、ここからは、私個人の活動について述べさせていただきます。カスタネットの活動を10年続けてきて感じていることは、「人は変わる(替わる)」ということです。ボランティアの高齢化が問題になっていますが、10年も経てば年齢とともに人々の置かれる環境は変わります。介護・孫守り・退職・病気などが原因です(変わる)。そして、人事異動がない行政職員はいません(替わる)。せっかく日本語教室が活動を始めても、数年経つと代表をする人がいなくなって空中分解したり、市町の担当者によって活動が左右されたりする事例を見るようになりました。本当に残念なことです。では、日本語教室がずっと続いていくためにはどうしたらいいのでしょう。私は「仕組みを作ること」だと思いました。これは行政の仕事です。

 文化庁が体制づくり事業を始めると聞いたときは、飛びつきたくなる思いでした。もちろん一日本語教師にそのような力はありませんが、佐賀県多文化社会コーディネーターの北御門織絵さんとは何度も何度も話し合いました。佐賀県の「日本語教育の仕組み」、その理想像を描き出すのは大変なことでした。スタートアップ事業で佐賀県に関わってくださった先生方にもたくさんのご意見をいただき、「できるかもしれない」と思えるようになりました。2021年度より佐賀県は「地域日本語教育の総合的な体制づくり推進事業」を始めました。私もできることはさせていただき、まずは県単位での仕組みを作り、その大きな輪の中で、市町で活動する日本語教室を支えていけるようにしていきたいと願っています。

2022年08月28日 | Posted in TaSSK/WEBコラム, お知らせ | | Comments Closed 

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