WEBコラム〈13〉これからの地域日本語教室の話をしよう
これからの地域日本語教室の話をしよう
土井 佳彦
NPO法人多文化共生リソースセンター東海 代表理事
大学を卒業後、地域の日本語教室でボランティアを始めてからもうすぐ20年が経ちます。この間に進学や転職で4回ほど引っ越しをしたので、活動に参加させていただいていた教室は6つぐらい、見学や研修会などで関わらせていただいた教室は100を超えます。どの教室も、それぞれに設立の経緯があり、活動されている方々の立場や経験も様々で、またそこに参加されている外国出身の方々にもいろいろな思いがありました。地域の日本語教室は、どの教室も人の多様性とそこに集う人たちの笑顔であふれています。私はそんな空間が好きで、どこにおじゃましても居心地の良さを感じます。
1970年代ぐらいから、全国各地で地域住民の主体的な活動として展開されていったと言われる日本語教室は、主に母語の異なる住民同士が日本語を使って交流する場所であったと聞いています。それがいつの間にか、日本語を母語とする人が、そうでない人に教科書を使って“レベル別”に“クラス”分けをし、“先生”が“生徒”に“教育”や“指導”をする場になったり、そうなることを行政などに求められたり、期待されたりするようになりました。一方で、“ボランティア”による地域日本語教室と“専門家”による学校教育との違いから、“教室型”ではなく“対話型”の活動を推奨する動きもあり、非常に混沌とした状態が生まれています。
そんな中で、「これからの地域日本語教室は、どうあるべきか」という問いを耳にすることが多くなってきました。研修会などで、私にもそんな質問を投げかけられることがよくあるのですが、これに対する私の答えは、いつも同じです。
「あなた(たち)は、どんな教室でありたいと思いますか?」
そう問い返すと、多くの場合、明確な答えは返ってきません。時々、ご自身の考えをお話くださる方もいらっしゃいますが、その考えを他のボランティア仲間と共有しているか、その仲間はどう考えているかと重ねて聞くと、みなさん答えに窮してしまいます。「他の人がどう考えているかまでは知らない。聞いたこともない。自分もちゃんと話したことはないけど。」とおっしゃいます。そう聞くと、活動時間中はとっても盛り上がって楽しそうな雰囲気の教室であっても、少し寂しい気持ちになってしまいます。
私は、この教室がどんな場でありたいと思っているのかを、自分たちで考え、試行錯誤しながら実践している活動のことを、本当の意味でボランタリー(自発的)な活動だと考えます。謝金をもらっているか、日本語教育の専門知識や経験があるかではなく、その活動を自分の意思で行っているかどうかがポイントです。外部の人の意見などを参考にしつつも、最終的にどうありたいかを決めるのは、そこに参加する方々ですので、私からこうしたらよいなどと言うことはありませんし、そもそも“答え”を持ち合わせていません。
一方で、自治体や国際交流協会などの公的機関が開設した日本語教室に“ボランティア”として参加する場合、設置主体側に明確な目的や活動方針があり、それに理解と共感を示した人が運営に“協力”するという形になるかと思います。仕事ではないので、協力するかどうかを自分の意志で決められるのが“ボランティア”です。自分が思っていた活動と違うのであれば、参加しないという選択肢を選ぶことができますが、参加するのであれば、自分の好き勝手にやることはできません。この場合、設置主体側の事業目的や活動方針が不明確だったり、“ボランティア”が目的や方針とはズレた活動を行なっていたりすると、それが双方にとっての悩みのタネとなります。
いずれの場合も、悩んだ時の解決方法は一つです。活動参加者による話し合いしかありません。“ボランティア”や“学習者”など、直接活動に参加している人だけでなく、教室の設置者や会場の持ち主、その活動が行われている地域の様々な立場の方からの意見も聞いてみると、より客観的・多角的に自分(たち)の立ち位置や存在意義を理解することができると思います。
この2年ぐらいは、コロナ禍で今までと同じような活動ができなかったり、オンラインなど新たな形態にチャレンジしたりと、いろいろな変化があったと思います。それはきっと、これからの活動を考えるきっかけにもなったのではないでしょうか。この活動は、誰のために、何のためにあるのか。この活動が、それを必要とする人にどれだけ届いているのか。今後もこの活動を必要としてくれる人は誰なのか。その人たちの期待に応えられる活動になっているだろうか。自分は、いつまでこの活動に参加していられるだろうか、等々。日頃気になっていることや、今まであまりじっくりと考えてこなかったこともあるかと思います。
ぜひ一度、お茶でも飲みながらリラックスした雰囲気の中で、周りの人とお互いの考えを共有してみてはいかがでしょうか。