WEBコラム〈11〉ジェンダーと多文化共生
ジェンダーと多文化共生
松岡真理恵
多文化社会コーディネーター
公益財団法人浜松国際交流協会
先日、女性理事が多いと会議が長引く、というような発言が世間を騒がせましたが、多文化共生社会でジェンダーの視点を持つのは非常に大切です。「外国人」とひとくくりにせずにジェンダーの視点で見ないと見落とすことがたくさんあります。
例えば、昨年の新型コロナウイルス感染症拡大に伴う経済活動の停滞により、打撃を受けた家計の支援のための特別定額給付金の支給においても、通知・振込単位が個人ではなく世帯であったために、自分に支給された給付金を受け取れない外国人女性がいました。私が相談を受けたケースでは、行政の女性相談窓口では、DVとまでは認められなかったが、日本人夫との関係が普段から悪く、子どもと自分の給付金を渡してもらえないというものでした。これは何も外国人に限ったことではない問題だったと思います。
また、外国人の子どもの進学支援をしているときに、外国人の父親が自国の「文化」の名の下で、娘の将来について本人の意志とは関係なく決定していくとき、私たちは何ができるのか悩むところです。
あっせん会社の紹介により開発途上国の外国人女性が日本人男性と結婚したものの、夫婦間の共通言語がほとんどないというケースもしばしば見られます。また外国人妻が日本語の習得機会もないまま子育てや生活に追われ、車の運転もできないことから移動の自由もなく、夫やその実家に囲われているような実態もあります。外国人女性が自分で産んだ子どもに母語で話しかけることを夫や夫の家族から反対され、子どもとの深い絆を築けずに悩むこともまだまだ多いという現状もあります。
何よりも、意識して多文化共生の分野をジェンダーの視点でとらえなおすことがまだまだ不十分だということが大きな課題です。
このようなジェンダーの視点を多文化共生の分野にきちんと取り入れていくためにも、そもそもそれに取り組む担い手自身が、ジェンダーバランスや差別・格差の当事者として自覚をもって現状を変えていくことが大切だと考えています。というのも、多文化共生社会の担い手についてもジェンダーバランスや差別・格差の問題は常態化していると言えるからです。一言でいえば、「女と外国人は安く使え」という現状がまかり通っていることです。国際交流協会やNPOなどにおいて、規模が小さく組織基盤の弱い組織ほどその傾向は顕著です。女性や外国人の職員は低賃金、非正規雇用、低権限の三拍子がそろっています。現在、当機構では多文化社会コーディネーター協働実践研修が進行中ですが、参加者15名のうち女性が14名を占めています。それは決して偶然ではないでしょう。多文化社会に関わる活動の担い手には女性が多いのです。なぜなら、低賃金、非正規雇用の仕事が多いからだと言えます。それは、社会の主流ではないもうからない仕事だからといっても過言ではないと思います。
研修参加者の中で話題になったこととして、外国人の正規雇用を促進したり安定雇用を支援する事業を担当しているが、その自分が非正規雇用だというものがありました。どこでも似たような笑えない現実が常態化しています。全国のいわゆる国際交流協会のような組織は、行政の下請け組織として職員の賃金は低く抑えられており、その多くは女性と外国人ですが、事務局長や常勤の理事など組織の上部は行政からの出向や天下りポストとなっていることが多いのが実情で、その多くは男性です。また、例えば団体の理事や評議員など役員についてはどうでしょうか。形式的な役員会であるほど、男性が多いのではないでしょうか。女性の役員は申し訳程度に1、2人おかれているにすぎないことが多いと思われます。どんなにがんばったとしても、仕組みが変わらない以上は、組織に見切りをつけて辞めていく職員も多いというのが現実なのです。
しかし、もういいかげん、この仕組みを変えていかなくてはいけませんし変えていける兆しも出てきていると思えるようになってきました。多文化共生社会づくりの活動は社会の亜流であり、もうからない優先順位の低い仕事では、もうありません。当機構が目指しているように、専門性の高い職として、また、社会を変えていく重要な活動として位置づけられつつあります。そして、そのことはこれまで現場で活動してきた女性や外国人の力が社会的に重要なこととして認められることとつながっていくことになります。全ての問題はつながっています。灯台下暗しにならないように、意識して取り組んでいきたいと考えています。