WEBコラム〈28〉相談通訳者のための研修
相談通訳者のための研修
岩田久美
スペイン語認定相談通訳者
愛知県立大学大学院国際文化研究科博士前期課程コミュニティ通訳学コース在籍
私はスペインから帰国後1992年からフリーランススペイン語通訳者として、主にビジネス分野での通訳を行ってきました。
2011年に東京外国語大学多言語・多文化教育研究センター(当時)で、「コミュニティ通訳コース」が開講されることを知り、受講しました。
このコースで多文化社会コーディネーターコースの受講生の方々との、共通必修科目として多文化社会における文化・教育・言語・宗教、在留資格制度や福祉・ソーシャルワーク、
ボランティアNPO・社会資源などの科目を学んだ後、コミュニティ通訳コースの専門別科目として行政・教育・医療・司法の4分野における基礎知識の他に、通訳概論や技術、演習などを学習しました。
今までほとんど知らなかったコミュニティ通訳という分野と初めて出会ったのがこのコースでした。
コースを修了後、コミュニティ通訳者として同センターに登録し、「通訳実践の場」として
弁護士事務所での相談や、専門家相談会などで通訳を行いました。
その中でそれまで行ってきたビジネスなどの通訳の現場とはいろいろな面で異なる、コミュニティ通訳者の難しさを知りました。
さらに「コミュニティ通訳協働実践型研究会」に参加し、その最終成果としての「相談通訳・倫理綱領」の策定にも関わりました。
その後自治体等で語学ボランティアの方々のための研修(通訳技術やマナー、心構えについて)の講師を務めさせていただく機会が多々ありました。
通訳の経験がある私にとっても難しいと感じるコミュニティ通訳の現場で、多くの語学ボランティアの方々が通訳業務を行っているということがわかり、コミュニティ通訳者の中でも特に高い専門性を要求される「相談通訳」のための研修の中で、通訳者としての質の向上を図るためにはどのようなものが必要であるかを常々考えてきました。
昨年から愛知県立大学大学院国際文化研究科前期課程に、コミュニティ通訳学コースが開設されていることを知り、今年の4月に入学しました。
私の場合、スペイン語の相談通訳者としての認定を受けていますが、バックグラウンドが通訳者であり、相談員としてのキャリアがなく、認定者の中でもほかの方々とは毛色?が違う存在です。
そんな私が相談通訳者の養成や研修に少しでも貢献できるとしたら、やはり研修の部分ではないかと考え、大学院の研究テーマも「相談通訳者の研修について」を考えています。
通訳の世界においても、コロナ禍後、AI翻訳の精度の向上やタブレットやZoomなどを使用したオンライン通訳も増え、必ずしも対面で通訳を行わなくてもよい環境が整ってきています。
しかしコミュニティ通訳、特に相談の現場では、近くに通訳者がいて言葉のサポートだけではなく、同じ場所であなたの相談を共有していますという共感の気持ちや、傾聴する姿勢も通訳者には求められると感じています。
今後は大学院での研究と共に、実践の場として相談会などでのコーディネーションを含む通訳の経験を積みたいと考えています。
また研究のために、国内外で行われているコミュニティ通訳や相談通訳の研修等があれば、積極的に参加、調査させていただくことができればと思っています。