WEBコラム〈18〉変化するNPO・ボランティアと中間支援組織のあり方を考える

渡戸 一郎

明星大学名誉教授/
東京ボランティア・市民活動センター運営委員長 /
多文化共生教育ネットワーク東京[TEAM-Net]共同代表

 4月下旬、日本学術会議の主催でシンポジウム「孤独・孤立と「つながり」の再生」があった。内閣官房孤独・孤立対策室の「全国実態調査」報告に次いで、東洋大学の須田木綿子さんから「個人化の時代の「つながり」:エピソディック・ボランティア」という興味深い発表があった。

 「エピソディック・ボランティア」とは、2000年代以降に見出されるようになった、新たな方法で人々がつながる機会を提供しているNPOやボランティアの活動を指す。具体的には「組織にはしばられたくない/組織として関係者をしばりたくない」「濃い人間関係は苦手」「自分の都合のいいときだけ(不定期に)、好きな方法で参加したい」「責任を負う立場を好まない」「誰かを支援しているつもりはない。自分がしたいからしている」「表立っての主義・主張も積極的にはしない方が多い」といった特徴があるという。実際、活動者本人は「自分はボランティアではない」としつつ、例えば東日本大震災を契機に生業の形を変えながらボランタリーアクションを不連続に続け、一種の「シビック・キャリア」を積んでいる事例が報告された。そして、これまで行政が進めてきた新自由主義的な民営化政策(指定管理者制度など)を転換し、上記のような変化が見られるNPO・ボランティア組織のあいだの“競争”ではなく、“連携”を促す仕組みを整え、中・長期的に伴走支援することが中間支援組織のあり方が求められると強調された。

 ところで私が運営にかかわってきた東京ボランティア・市民活動センターも、創設から40年余りが過ぎ、2月に開催されたボランタリーフォーラムでその歩みを回顧する機会があった(その内容は同センターの機関誌『ネットワーク』377号に寄稿)。美濃部革新都政時代の1973年に「公私協働」「公設民営」方式で東京都ボランティアコーナーが生まれ、当時大学院生だった私は夜の時間帯の担当員となった。その後、多様な領域からなる運営委員会の決定を最大限尊重することなどを条件に、1981年、東京都から東京都社会福祉協議会が受託し、社協内組織として東京ボランティアセンターが開設された。さらに阪神・淡路大震災時の“ボランティア革命”を契機に、ボランティアセンターの総合的機能と市民活動推進の必要性が唱えられ、1998年、東京ボランティア・市民活動センターの再編に至る(都の所管は福祉局から生活文化局へ)。たまたま私はこうした組織的変遷に寄り添うような形で運営委員会等に参画し、同時に中間支援組織とそれを取り巻く社会変化を見てきたことになる。

 先の『ネットワーク』誌の拙稿で私は「ボランティア・市民活動再考に求められる視点」として次の3つを挙げた。第一は、個人化の進展を背景に、弱体化した地域住民組織の再構築とNPO等との連携を視野に入れた「新たなコミュニティ論」の視点。近年ではコロナ禍で進むデジタル化と同時に、「場の共有」の価値と意味もこの文脈で再認識されつつある。

 第二の視点は、行政・企業等の諸機関からなる「強い専門システム」と、家族の縮小・地域社会の弱体化・格差社会化を補完する「弱い専門システム」(コレクティブ・ワーカー、フリースクール、日本語支援や学習支援活動、子ども食堂、多様な当事者団体による居場所づくりなど)との協働。後者のシステムは現場から生まれる「市民的専門知」を蓄積・発達させるが、持続可能な資源確保などでは「弱い」ので、前者の「強い専門システム」による制度的な支援や協働が課題となり、そのあり方が問われる。

 第三は、市民セクターのシステム化が進む中での、「参加の自由」に基づくダイナミクスの保持の視点。特定非営利活動促進法制定を受け、自治体の「協働」指針など市民活動推進政策が始動して20年余。社協系ボラセンの再編、自治体系や民間系の市民活動センターなどが混在しながらも、中間支援組織は確実に増加し、政府セクター(国/自治体)・市場セクター(企業)・インフォーマルセクター(世帯/地域社会)を補完しつつ変革する市民社会セクター(協同組合、NPO、NGO等)のシステム化も進んできた。しかし市民社会セクターを支える創造力は、あくまでも個々人の関心・思い・問題意識に基づく「参加の自由」にそのダイナミズムの源泉がある。そしてそこでは市民社会セクター内及び他のセクター間を媒介する中間支援組織のあり方が重要なキーの一つになる。

 さて、ここまで、社会変化を踏まえながらNPO・ボランティアと中間支援組織のあり方について述べてきたが、コロナ禍で困窮する外国につながる住民・学生・子どもなどへの支援において、地域の社会福祉協議会、国際交流協会、市民活動団体等の連携が進んだ点もある(東京都つながり創生財団の報告書を参照)。これを一過性のものとせず、分野を超えた中間支援組織間のつながりが普段から維持され、協働の実績を積んでいくことが望まれる。災害支援などにもその成果は活かされていくだろう。

[参考文献]

東京都つながり創生財団『国際化市民フォーラム in Tokyo実施報告書』2022年3月(筆者がモデレータを務めたA分科会「多文化共生の「これまで」と「これから」」を含む。この報告書は同財団のHPからダウンロードできる)

渡戸一郎「東京ボランティア・市民活動センターの40年をふり返る」『ネットワーク』377号、2022年4月(同センターのHPから5月中には読めるようになる予定)

同上「〈多文化共生〉のまちづくりと自治体政策」豊中国際交流協会編・牧里毎治監修『外国人と共生する地域づくり――大阪・豊中の実践から見えてきたもの』明石書店、2019年

2022年04月30日 | Posted in TaSSK/WEBコラム, お知らせ | | Comments Closed 

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