WEBコラム〈25〉ソーシャルワークという仕事
丸山 文
ソーシャルワーカー(Licensed Master Social Worker)
NPO法人中信多文化共生ネットワーク(CTN)所属
松本市多文化共生プラザ・コーディネーター
長野県多文化共生相談センター ・ソーシャルワークアドバイザー
私は、自分の仕事がとても好きだ。何をしているかというと、私はソーシャルワーカーとして移民、難民、外国人など、国際的に移住してきた人々が移住先の社会に定着するための支援活動をしている。このソーシャルワークという仕事に、とてもやりがいを感じる。この仕事では、たとえ短い期間であったとしても、さまざまな人々の人生の一部を一緒に歩ませてもらう。この仕事の価値観や姿勢を保ち、人々と接することで、自分の人生がより豊かになったと感じている。そんなソーシャルワークについて、少しでも多くの人に知ってほしいので、私がやりがいだと感じることを2点だけ紹介したい。
まずひとつ目に、この仕事は人々の「力」を目の当たりにできる。人は、生きていく中で、さまざまな困難に直面する。その困難の前に、自分が無力に感じたり、不安や悲しみを感じたりする。私は、支援の現場に立つまで、支援とは、困難に直面している弱者を「助けてあげる」ことだと思っていた。しかし、ソーシャルワークは、人々の潜在的な「力」を信じ、困難を乗り越える可能性を信じる。つまり、私に「助けてあげる」力があるわけではなく、その人自身が自分を助ける「力」をもっているということだ。この信念とともに、人々が困難に立ち向かう過程に寄り添うと、人が「力」を取り戻し、笑顔になっていく姿を目にすることとなる。
例えば、東南アジア出身のKさんは、「私は、できるようになった。嬉しい。」と笑顔で話してくれる。
Kさんは夫が難病にかかり、どうして良いかわからなくなり相談に来た。家計の管理、子供の学校とのやりとり、さまざまな手続きなど、日本社会と関わることは、全て夫に任せてきた。その夫が倒れ、生活を維持するために何をどうしたらいいのかわからず、Kさんは無力に感じていた。その後、生活の困窮、夫の死、繰り返される子供の自傷行為などさまざまな困難に直面した。
私が所属する相談機関では、Kさんが自分の置かれている状況を整理し、利用できる制度やその仕組みを理解していく過程に寄り添ってきた。現在、Kさんの生活は、以前より安定している。しかし、決して余裕のある生活をしているわけではない。また、亡くなった夫が帰ってくるわけでもなく、子供の心配も尽きない。それでも、自分の身の回りの人が困っていると、日本人か外国人かに関わらず、話を聞いてあげたり、自分が知っている相談場所を紹介してあげたりしている。
Kさんにとって「できるようになった」というのは、自分なりに問題を解決したり、家族や社会の中で、役割を果たしたりすることが「できるようになった」、ということだと思う。Kさんの笑顔は、自分には「できることがある」と信じる「力」を取り戻した笑顔だと思う。
このように、無力感、不安、悲しみに満ちていた顔が、Kさんのように笑顔を取り戻していく姿を日々目の当たりにする。人々の潜在的な「力」を信じ、その「力」を実際に感じることに、私はやりがいを感じる。
2つ目は、人間が人間として分かち合うものを感じられることだ。ソーシャルワークという仕事は、本当に色々な人々と関わることになる。自分と文化や言語が違う人、それだけでなく、さまざまな境遇の多様な人々がいる。私は、多様な人々と関わる仕事の醍醐味は、文化などの「違い」に触れる刺激だと思っていた。ただ、ソーシャルワークの、「人々は皆、属性や業績に関わらず尊重される」という価値観と共に人々と接していると、「違い」よりも「共通点」に気がつくことの方が多かった。
ある時、クライエントのGさんに「もうすぐお子さんの誕生日ですね」と言うと、少し悲しそうにしていた。難民キャンプで生まれ育ったGさんの子・Aちゃんは、定住先に移住した暁にはお誕生日パーティをするのを夢見ていたそうだ。きっとテレビや絵本で「お誕生日パーティ」の様子を見たのだろう。しかし、Gさんは仕事がなく、Aちゃんに誕生日パーティをやってあげられないと考えていた。私とGさんのやり取りを聞いていた同僚は、Aちゃんに誕生日プレゼントを買ってあげたいと申し出た。なぜなら、私の同僚はGさんの気持ちが痛いほどよくわかるからだ。彼自身、同じように難民として過ごし、子供に思うように与えてあげられなく、辛い思いをした経験があったそうだ。その後、私たちは、Aちゃんのお誕生日パーティをみんなでやることにした。同僚がプレゼントとして用意した自転車から離れないAちゃんの姿とGさんの笑顔が忘れられない。
Gさんの家族と私の同僚は、全く違う国の出身で、肌の色も、言葉も、文化も違う。でも、子供に「自分ができる限り最大限の幸せを与えたい」と思う気持ちは同じだ。このように人々の違いを尊重し、受け入れ、接していく中で、人間としての根本的な同じ思いに触れる。このような経験をさせてくれるこの仕事にやりがいを感じる。
私は、この仕事に出会い、専門職としての理論や方法だけでなく、大切な視点も学び、自分の人生がより豊かになったと思っている。私は、本当にこの仕事が好きだ。これからソーシャルワークが日本でももっとメジャーな仕事になってほしいと考える。
参考文献
坂野憲司, 増田康弘(2021). 『ソーシャルワークの理論と方法』.初版.新・社会福祉士シリーズ8.弘文堂.