第3回 多文化社会実践研究フォーラムまとめ-第4回に向けて-

2020年12月6日(日)にオンラインで開催する「第4回多文化社会実践研究フォーラム」に向けて、第3回フォーラム(2018年12月9日開催)のまとめを掲載いたします。当日ご参加の予定の方にはぜひご覧いただきたいと思います。また、ご参加を検討なさっている方もご参考ください。(事務局 菊池哲佳)

第3回多文化社会実践研究フォーラム「多文化社会を問う」
 2018年12月9日(日)10:30〜19:10
 早稲田大学戸山キャンパス
 参加者: 110名

全体会Ⅰ「多文化社会をとりまく国内外の動向」
 高橋明美(東京社会福祉士会国際委員会委員長)
 山田泉(にんじんランゲージスクール校長/元法政大学)
 渡戸一郎(明星大学名誉教授)
  コーディネーター:松尾慎(多文化社会コーディネーター/東京女子大学)

 改正入管法が8日に参議院で可決された翌日に本フォーラム、そして、この全体会Ⅰは行われた。パネラーとして、渡戸一郎氏(移住者と連帯する全国フォーラム・東京2019事務局長)、高橋明美氏(東京社会福祉士会国際委員長)、山田泉氏(にんじんランゲージスクール校長)をお迎えした。
 冒頭で各パネラーに10分程度問題提起していただいた。移民政策、都市社会学を専門とする渡戸氏は、日本はすでに移民社会であることを指摘し、諸外国の政策動向に関しても論じた。今回の改正入管法の議論において外国人住民当事者の声を聴くための公聴会が開かれていないという指摘が印象に残った。高橋氏は社会福祉士の立場から国内外の動向を論じた。社会福祉士の視点では在日外国人労働者を労働者としてではなく、地域に暮らす人として捉え、生きづらさを発生させないことの重要性を指摘した。また、韓国における外国人支援の取り組みを紹介した。山田氏は多元文化教育、日本語教育の立場から多文化化する日本を近代民主主義社会にするためには主権者を育てる教育が必要であることを強調した。また、山田氏は外国人住民の「戦略的同化」の必要性と意義を強調した。
 パネラー同士でのコメントや質問を挟み、最後はフロアからのコメントや質問によって会場全体で議論を行った。山田氏が唱える「戦略的同化」とはいったい何であるのかさらなる説明を求める質問、「外国人」ということばがすっきりしないが、ではどう言えばいいのかもよくわからないのだがという質問がフロアから出された。この「同化」ということばに関しては、分科会4において、「違和感」が表明され、全体会2においても「同化」ということばに対し議論が続いた。このフォーラム全体に対し、全体会1が一定の影響を与えたといえよう。(松尾慎)

分科会
 分科会①「福祉から多文化社会の課題を問う」
 多ケ谷實(埼玉県社会福祉士会多文化共生ソーシャルワーク委員会)
 野田有紀(神奈川県外国籍相談窓口)ほか
  コーディネーター:新居みどり(NPO法人国際活動市民中心)

報告から次のことが共有された。
・社会福祉士の仕事において、外国人は決して特別な、例外的な支援対象ではなくなっている。
・国際交流協会の外国人相談事業においては、事業に携わる人材の育成と社会福祉専門職や社会資源との連携・協働がますます求められている。
・外国人支援の市民活動では、外国人住民が日本人住民と区別されることや、専門職も言語の壁を必要以上に意識すること、また市民活動が他の社会資源を十分に把握していないという課題がある。
 これらのことから、地域福祉にかかわる人や組織がお互いのことを知ること、ネットワークを築くことが必要であることが浮かび上がった。(新居みどり)

 分科会②「人権から多文化社会の課題を問う」
 藤井博文弁護士(東京弁護士会)
 チョウチョウソー(NHKビルマ語放送キャスター、民主活動家)
  コーディネーター:高柳香代(多文化社会コーディネーター/移住労働者と共に生きるネットワーク・九州)

 話題提供により、東日本、大村入国管理センターでの被収容者の人権課題は様々な形で存在しているが、一方で市民団体、法律の専門職、コミュニティ内の支援者の活動を通じて地道に改善が図られていることも示された。具体的には、(1)収容者の増加、収容の長期化(2)医療アクセス・体制への懸念(3)仮放免の運用の厳格化といった問題がある一方で、長年の意見交換会実施を受けて、例えば運動時間の延長、食事の処遇、宗教行事への配慮がなされていることが語られた。支援の実践者を通して収容と被収容者を巡る人権課題を知り、考えることの重要性を共有した。(髙柳香代)

 分科会③「司法から多文化社会の課題を問う」
 殷 勇基弁護士(東京弁護士会)
  コーディネーター:中村亮(弁護士)

 裁判所が司法を支える担い手について多国籍化を拒む背景について、在日コリアンの殷勇貴弁護士から報告があった。報告においては、日本では国の制度を運用する者は日本民族(国籍)でなければいけないとの考えが根強く、民族主義的な国家であるとの指摘があった。民族主義的な考えが当然になりすぎて国籍差別が人種差別であると自覚されていないとも言えよう。
 このような状況下では、日本国籍の取得要件が緩和されることは期待できないが、せめて外国籍のままでも任用できる公職を幅広く認め、外国籍者を受け入れ対象ではなく、日本社会を支える存在として活躍できるようにすることが求められるとの提言があった。(中村亮)

 分科会④「教育から多文化社会の課題を問う」
 秦さやか(新宿区立戸塚第三小学校)
 田村恭子(武蔵野市国際交流協会)
  コーディネーター:山西優二(早稲田大学)

 社会の多文化化が進む中で広く拡がった「文化交流・文化理解」「英語によるコミュニケーション」「外国人のための日本語支援」といった文化・言語を扱う教育のあり方(現状)を問い、共生・公正に向けた教育のあり方を探るために、特に地域にみる多様化する文化・言語の問題と個々の人間にみる多層化する文化的言語的アイデンティティの問題に焦点をあて、そこからみえる教育の課題を浮びあがらせることをねらいとした。話題提供とその後の議論から、①人間と内外にみる多様なことば・文化の関連を問う教育のあり方、②「教えること」「教えないこと」と「学ぶこと」の関連を問う教育のあり方、③ことば・文化にみる「同化性」と「創造性」の関連を問う教育のあり方、という3つの基本的で本質的な課題が浮かびあがった。(山西優二)

 分科会⑤「労働から多文化社会の課題を問う—「担い手」をめぐる問題から」
 能勢桂介(立命館大学生存学研究センター客員研究員)
  コーディネーター:松岡真理恵(多文化社会コーディネーター/浜松国際交流協会)

 話題提供により、多文化共生政策をめぐる労働環境について、担い手に自己の立場や支援のあり方を社会的歴史的文脈に位置付けることや、普遍的な視点からとらえようとする志向が弱いため、協働のあり方を問題化し社会の問題とすることを阻まれているとの指摘があった。
 そのうえで、よき市民として公共的な言論や政治にもっと積極的に参加することで社会構造を少しずつでも変えていくことが必要であり、また多文化共生の分野のみでなく、若者や困窮者支援など多分野の連携によって進めていくことにより、政治的な働きかけを確かなものとしてく戦略が必要ではないか、という提言があった。多文化共生に向けて社会を変えていくということは、携わる自らのかかわり方をも含めた市民としての意識を磨くことが必要だということが浮かび上がった。(松岡真理恵)

全体会Ⅱ「多文化社会像を描く」
 新居みどり(NPO法人国際活動市民中心)
 高柳香代(多文化社会コーディネーター/移住労働者と共に生きるネットワーク・九州)
 中村亮(弁護士)
 山西優二(早稲田大学)
 松岡真理恵(多文化社会コーディネーター/浜松国際交流協会)
  コーディネーター:野山広(国立国語研究所)

テーマである「多文化社会像を描く」ために、全体会Ⅰの内容、そして分科会1から5のコーディネーターからの報告内容を踏まえて、対話、議論を行いました。
 全大会Ⅰに関連しては、「戦略的同化」と「協働」というキーワードに焦点を当てました。そこで、会場に居られた山田泉さん(全大会Ⅰのパネラー)に、改めて、地域における「戦略的同化」の意味に関して問いかけ、回答して頂きました。
 このとき具体的には、「私(野山)自身が縦断的(形成的)フィールドワーク等含めて、地域において、地域の方々と協働作業をしながら、さまざまなことに関わっていると、わりと運営がうまくいっている教室が、実は、敢えて、戦略的同化のようなことを意識しながら日本語教室を運営し、維持している場合がある~」という事例を挙げた上で、山田さんに「戦略的同化」ということばを今回使用した意味について伺いました。
 山田さんによれば「「同化ということば自体が嫌い~」といような反応が恐らくあるだろうという予測の下で敢えて使用しています」ということでした。また、「自分自身、日本語教師という間の仕事を経験することで、多くの偏見や差別が自分の中に存在することを意識できました。」ということや、そうした偏見や差別を問い直し、克服の方法を学び、第三の道や、時代を超えた方向性を探求することが肝要ということ」を学んできたそうです。さらに、「協働」と「同じ土俵に乗る」ということに関連しては、「マジョリティとマイノリティの土俵を合わせ見ながら、もう一つの新たな土俵を創り出していくことが重要」との指摘がありました。
 上記に応えて、分科会4担当の山西さんにからは「このように、こうしたことばを問い直すことが重要」ということや「敢えて教えない」ということの意味を考え、議論することの重要性が指摘されました。また、分解会4で議論された文化の多様性、ことばの教育(日本語を教えない)等の既存の枠組みに関しても、改めて問い直すことをが、いかに重要であるかという意見がありました。
 既存の枠組みの問い直しという意味や必要性という意味では、分科会3で話題になった家庭裁判所の調停委員に、今こそ、在日の方を含めた複言語・複文化環境で育った方(仮にその人が外国籍住民であったとしても)なれる機会を提供する必要があることが改めて確認されました。また、裁判官の候補者も含まれる司法修習生の研修内容の改善が期待されることも確認されました。
 分科会1に関連して、外国籍住民が苦労することの一つである部屋を借りる場合の、不動産屋の対応、関係性構築の問題に関して改めて言及がありました。これに関しては、「確かに部屋を借りることは大変だが、外国籍住民の仲介役の社会福祉士も、部屋のオーナーの仲介役の不動産屋さんも、どちらも良い悪いというわけではない」ということで、関わる当事者同士が直接対話できる機会をいかに多く作っていき、関係者を巻き込んでいくかが肝要であることが指摘されました。
 分科会2に関連しては、「協働」や「対話」の重要性という意味で、改めて、大村入国管理センターとの定期的な意見交換会(15年)がいかにして始まったかに関して、高栁さんから報告して頂いた。「絶対受けられそうもない協働の依頼が管理センターからあった際、拒否せずに敢えて、直接対話をする機会を作って頂けるように仕掛けてみたこと」が切っ掛け、転換点となったことが判明しました。
 分科会5に関しては、例えば、市の国際交流協会が市役所と、「市民性教育」や「(日本語教育推進基本法が成立した後の)共生社会に対応した日本語教育」などに関連した事業を「協働」する際の難しさと戦略に関する話がありました。松岡さんによると、「準備をしながら企画を(市に)提出すること」「財政=お金のことを含めて、協働でしたたかにやりながら、市民社会を皆で創っていくという気概・姿勢が重要」との指摘がありました。
 この後、会場(分科会1の報告者多ケ谷さん)と、分野を超えた者同士の学び合い/わかちあいの重要性に関する意見交換も若干ありました。 最終的に、これらの分科会の報告や意見交換を経て、これからの共生の時代に向けて改めて思ったことの一つは、分科会2で報告された管理センターとの関係性の構築の在り方は「一見ネガティブな状況を反転攻勢する際のヒントになるキーポイント」であり、外国人でだけでなく日本人も巻き込みながら、新たな(第三の)土俵を創るためにも不可欠な姿勢だと思いました。また、連携・協働の対象者に対する、こうした粘り強く、柔軟な姿勢は、2019年度以降到来するであろう新たな入管法下における外国人材(外国籍住民)との共生社会に不可欠な「市民性」の充実に向けた様々な課題(男女、国籍、戸籍、夫婦別姓、参政権、学習権など)の解決に向けた基盤となるものと思われます。ということは、「新たな住民がそれぞれの地域社会の一員として活躍、貢献していくことに思いを馳せながら、様々な国から来日して仕事をする人々を共生社会の一員として、日本人も先輩の外国人住民も、覚悟を持って温かく迎え入れる対応、工夫をすること」が肝腎かと思います。(野山広)

2020年11月20日 | Posted in お知らせ, 活動報告 | | Comments Closed 

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