WEBコラム〈4〉ボランティアコーディネーターに多文化社会コーディネーターの勧め
ボランティアコーディネーターに多文化社会コーディネーターの勧め
奈良 雅美
(一財)多文化社会専門職機構 監事
(特活)アジア女性自立プロジェクト代表理事
挫折から始まった
2006年度からボランティアコーディネーションの仕事をしています。その間、所属する、あるいは活動する場は何度か変わりましたが、その中で、もっとも多い比重を占めているのが多文化社会に関わるコーディネーションです。ボランティアコーディネーターは、各地のボランティアセンターや市民活動支援センター(いわゆる中間支援組織)、社会福祉協議会、一部のNPOなどに配置されています。
最初に与えられた仕事の1つに、「国際交流ボランティア」の登録管理運営がありました。当時は、ボランティアの活動が「国際交流」の域を出ず、外国人客のおもてなし程度にとどまっていました。在住外国人の個別のニーズには応えてはいけないという制限がつけられていたのです。何百人も活動したい人が登録していたのに活動実績のない人がほとんどでした。なんのためのコーディネーションか私は理解できませんでしたが、「制度」の牙城の前に駆け出しのコーディネーターはなすすべもなく終わってしまいました。
ここから「ボランティアとはなにか」という私の問いの旅は始まりました。ちょうどそのとき当時のプログラムコーディネーターだった杉澤径子さんに声をかけていただき、東京外国語大学多言語・多文化教育研究センターで実施された研究プロジェクト「多文化社会コーディネーター研究」に2007年度から参加、およそ10年近くにわたってコーディネーターについて学びと実践を深める機会を得ることができました。
ボランティアコーディネーションの役割は?
仕事の現場では、多文化社会に関することだけでなく、福祉、貧困、人権、など多様なコーディネーションの実践を重ねる中で、市民の自発性、主体的な参加が民主的なコミュニティをつくるのにつながるということに気づいていきました。
ボランティアは、陽の当たりにくい社会の問題に気づき、自ら「私ごと」として関わっていく中で、ともにその問題の中の課題を探り解決していこうとする試みをする人(活動)です。こう書くと、いかにも高尚で奇特な人の行為に思えるかもしれませんが、そうでもありません。街角の、交通事故の遺児たちの教育支援の募金をしたり、ショッピングセンターのイベントで販売されている授産製品を購入したり、被災者支援のボランティアバスに参加したり。そこに関わっているのは、時間的、経済的に余裕のある「ひまな人」ではなく、むしろ多忙な日々の勤めの中で時間をやりくりする人や、身体に障害がある人、「自分でもできることがありますか?」と訪ねてきた高校生、日本語が不得手だけれど日本の人々に役に立ちたいという外国人市民など、ごく「普通の」人々です。
ボランティアコーディネーションは、隙間に落ちそうな社会の問題を人々にわかりやすく伝え、参加を呼びかけ、学びや活動の発展を後押しします。ときには、社会の制度を変える運動にも関わります。そうして、市民ひとりひとりがコミュニティの担い手であることを改めて意識化し、私たちはそれぞれ主体的な存在であり、コミュニティの不具合があれば変えていける存在なのだという気づきを促す役割を持っています。
「持てる人」、「強い人」、「能力のある人」に社会の舵取りを任せてしまい、人々が考えること行動することをやめたら、自由や平等、人権の尊重といった、長い歴史の中で市民が獲得してきた知恵を放棄することにつながるのではないかと思います。ボランティアコーディネーターはひとりひとりの力が発揮できるよう社会参加を支える担い手です。
多文化社会コーディネーターとしてのウィングも
個々の人々は本来多様な要素をもっており、それだけ異なる意見や感覚を持っているのが当然なのですが、それを表しあい、いい落とし所をなんとか探ろうと対等な関係で話し合ったりすることを日本の社会では避けがちです。たしかに、暗黙の了解や阿吽の呼吸で済ませられてきたことも多いですが、多様な文化背景や言語、国籍をもった人々をさらに受け入れていこうと舵を切った政策が進められる中でそれは今後通用しないでしょう。
TaSSKは多文化社会コーディネーターの専門性を認定するプログラムをつくっています。多文化社会コーディネーターを「問題を解決するプロセスにおいて、多様な人・機関の参加の場を設定し、問題を共有することによって、協働を促し、新たな活動・事業・施策・仕組み、ネットワーク、知識、文化を創造する役割を担う」と倫理綱領で位置づけています。「多様な人・機関の参加の場を設定」とありますが、ボランティアのコーディネーションと同じ根幹的価値観を共有しています。コミュニティが今後ますます多文化化する中で、ボランティアコーディネーターも多文化社会の視点を踏まえたコーディネーションのあり方を深めていく必要があると感じます。ぜひ、TaSSKの展開する多文化社会コーディネーター認定プログラムに、ボランティアコーディネーターのみなさんも参加してほしいと期待しています。