WEBコラム〈22〉いざ!多文化共生活動第2ステージへ?
いざ!多文化共生活動第2ステージへ?
栗木 梨衣
一般社団法人 多文化社会専門職機構 監事
一般財団法人 中部圏地域創造ファンド プログラムオフィサー
NPO法人 多文化共生リソースセンター東海 理事
日本の多文化共生について話をしていた時のこと、ジェンダーの研究をしている中国からの留学生が、ポロリとつぶやいたことがあった。「ジェンダーと外国人の課題は似てますね。日本はいろいろな活動やサービスがあるのに、必要な人にちゃんとつながっていない気がします。」なるほどね、と思いながらも、その時は深く考えなかったが、妙に心に残る言葉だった。
そして現在、私は長く務めた国際交流協会の仕事に区切りをつけ、NPOに助成金を交付する財団で仕事をしているが、その関係で、様々な分野で活動しているNPOの話を伺う機会に恵まれている。その中の1つ、コミュニティナースカンパニーの活動は、学ぶことがとても多かった。
コミュニティナースは、人とつながり、まちを元気にする実践。「住民が互いを気にかけ合う関係づくり」を自主的に行うような活動を展開されている。もともと代表の矢田明子さんが島根県で始められた活動だが、現在は看護師さん以外の賛同者も増え、全国に支部ができて、私が住む愛知県でも東海支部が熱心に活動されている。「コミュニティナース」というのは、「コミュニティナーシング」という看護の実践からヒントを得て、矢田さんが考えられたネーミングで、職業でも資格でもないのだが、今や、看護師育成のテキストでも紹介され、全国の自治体や省庁から問い合わせを受けるなど、注目されているそうだ。
まず、地域の課題の見つけ方。地元の人がよく買いに来る魚屋さんや水道検針員のアルバイトをされたり、スタッフが公民館に就職したり…とあらゆる機会を捉えて課題を拾う、その方法がすごすぎる。その際、ナースとして、相手の健康状態をさりげなく観察するという専門力も発揮される。さらに、郵便局やお寺など、地域の人たちとつながっているところと連携して、例えば「あのおじいちゃん、何回も何回も記帳に来てるけど、認知症、だいじょうぶかな」と、一緒に見守る。
そうやって課題や気になる人を見つけたら、それを地域のメンバーによる「地域おせっかい会議」に持ち寄って、みんなで対応策を考えるそうだ。「支援しますよ!」と前面に押し出すと引かれてしまうし、かといって何も働きかけないと、自分から「助けて!」と声を出せない人も少なくない。おせっかいとは、「節度ある介入」だとおっしゃっていた。例えば、「あそこに引きこもっているお年寄りがいるらしい。元気にされているのか気になる」というケースが出されたときは、おせっかい会議メンバーのアイデアで、「保育園児が地域のお年寄りにお手紙を書く」という企画を実施し、その手紙を届けるという形で訪問されたそうだ。地域の多様な人たちが会議に参加することで、様々なアイデアや課題が出される。でも、その参加の度合いはそれぞれで、自分の状況にあう形で関わればよく、上下関係はない。みんなが心地よく、楽しく参加できる場になっている。
「地域の課題解決のため挑戦することに、正解も不正解もない。やってみなければわからないことばかり。地域の人たちの想いをみんなで肯定し、時間をかけて応援していくという人間関係をつくることが大切」という矢田さんのことばは、まさに「多文化共生」の目指すところと重なる。「おせっかい会議は外国人住民とつながることもあるのかな」などと思いながら聞いていた時、冒頭の留学生のことばが、ふと、よみがえった。長く多文化共生の活動に関わってきて、多文化共生の団体や活動については、すべてではないものの、それなりにつながり、知っているつもりでいたが、「コミュニティナース」の活動については知らなかった。地域で展開されている様々な活動について、実はほとんど知らないということに、今さらながら気づいて愕然としたのである。
課題がみつかると、その課題を解決するため、公的なリソースや多文化共生活動については調べても、他の分野の活動につながるという発想はあまりなく、その都度、新たに対応を考えることばかりしてきたような気がする。そのため、似たような事業や活動が連立し、それぞれが単発で限定的なものになってしまっている。その結果、「選択肢が多い」というよりは、情報が多すぎ、本当に必要な人たちが、どこにアプローチすればよいのかわからず、活用しにくい形になってしまっているのではないだろうか。留学生はそのことを感じていたのかもしれない、と。「多文化共生は地域づくりですよね」とか、「多文化共生は外国人との関係を考えるだけじゃないですよね」とか、「地域の他の分野とつながることが大切ですよね」とか。ずっと言い続けてきた自分自身が、地域とつながれていなかった。コミュニティナースの活動があるなら、「おせっかい会議」に参加すれば、いろいろな分野の方たちと一緒に、とてもいい活動が展開できそうだ。
もちろん、新しいことを始めるすべてが悪いわけではない。でも、社会や地域の課題が多様で深刻になる中、活動に関わることができる人材や財源がどんどん少なくなってきているのも現実である。何と言っても、多文化共生は地域づくりだ。地域にどのようなリソースがあって、どのような活動がされているのか、すでにある活動とうまく連携できないのか、まずは考えることが大切だと改めて思った。この30年間、急に増えた外国人住民と一緒に、頑張ってきた私たち(自分をエンパワーすることも大切ですよね)。新しい課題に対応するため、いろいろなことに取り組んできた。でも、これからは第2ステージとして、「これまでの活動を見直し、状況に合せて、形を変えたり強くしたりしながら積み上げていく」、「他の分野の活動の中に多文化共生の視点を組み込んでもらう」、などなどを考えることに力を入れていってもいいのかな、と思う。そして、そこに欠かせないのは、多文化社会専門職の力なのだ!と信じてやまない今日この頃である。