WEBコラム〈14〉想いをつなぎ、活動をデザインする -多文化社会コーディネーターとしての10年間の実践から-

想いをつなぎ、活動をデザインする
-多文化社会コーディネーターとしての10年間の実践から-

長尾 晴香

多文化社会コーディネーター
一般社団法人ViVarsity(前:Vivaおかざき!!)代表理事
株式会社link design lab 代表取締役

私は、愛知県岡崎市で10年来、外国人に対する支援活動を行っている。岡崎市は、愛知県の中央に位置し、隣接する豊田市との移動も容易であることから製造業が非常に盛んな地域である。そのため、製造業に従事する日系ブラジル人やフィリピン人、ベトナム人の技能実習生などの、就労を目的として来日した外国人住民が暮らしている。
実は、私も外国人と同じように、仕事が理由で岡崎市に引っ越してきた。大学で英語を専攻し、海外や違う文化・言語には関心はあったものの、仕事には結びつかないと諦めていた。だが、働きながら始めた国際交流ボランティアを通して、日本で働き生活をする外国人と出会うことになった。

当時はリーマンショック直後。増産になれば工場で働く外国人から「土曜日も出勤で大変だ」と聞き、減産になれば「残業がなくなって収入が減った」と聞いた。景気の動きは彼らの生活に直結していた。仕事だけでも大変なのに、ことばも習慣も違う中で困っているという話を聞き、私でも少しでも役に立てるかもしれないと思った。そこで、アルゼンチン人と日本人の3人で、外国人支援活動を始めた。その後、その活動を発展させ、当団体の前身となる市民活動団体として「Vivaおかざき!!」(2021年11月一般社団法人化に伴い、ViVarsityと改称)を立ち上げた。団体名には、岡崎市に住む皆が「Viva!!(=バンザイ)」と思ってほしいという願いを込めた。2010年のことだった。

Vivaおかざき!!立ち上げた後は、防災や教育のセミナー、地域行事への参加など、必要な情報提供や相互理解の場づくりに注力していたが、その中で、日本人側の心の壁や日本語が分からない外国人住民へのアプローチの難しさを痛感し、日本人側へのアプローチを含めた日本語教育事業を開始した。それと同時に、外国ルーツの子どもたちの課題も見えてきた。岡崎市は、愛知県で4番目に外国人住民が多いにも関わらず、外国ルーツの子ども向けの教室がなかった。子どもたちの学習支援と日本語を学ぶための教室も同時並行で行い、成人対象の教室だけでなく子どもたちの支援も開始した。このように、活動を開始してから、現場の課題に耳を傾けつつ懸命に事業運営に取り組んできた。市民活動ではあるものの、今振り返れば、この取組に対する姿勢こそが、「多文化社会コーディネーター」としての私を形成する重要な要素であったと感じる。

Vivaおかざき!!の事業は徐々に広がっていき、様々な団体からの講演依頼や連携・協力に関する相談が寄せられるようになってきた。ますます多文化社会コーディネーターの重要性を感じる中、私は2018年度に多文化社会専門職機構(TaSSK)が開催していた「多文化社会コーディネーター協働実践研修」を受講した。実践研修のテーマとして、これまで違和感はありながら、取り組むことができていなかった「外国人労働者のキャリア」をテーマに実践研究を行うことにした。これはVivaおかざき!!の設立の動機でもある「経済に翻弄される外国人を少しでも減らしたい」、そして「私自身の社会を生き抜く力を外国人ともに培っていきたい」という思いに起因している。研修の一環として、企業や外国人住民にヒアリングし、どのような要素が必要か自分なりに整理した。これまで多文化社会コーディネーターとして草の根で活動してきたが、1人では進まなかったことも研修を通して見つめ直すことができた。そして、ここでの実践研究を礎として、就労分野に特化したアプローチで外国人を支援するために、2019年2月に株式会社link design labを社会的企業の位置付けで設立した。社名には市民活動でも大切にしてきた「つながりをつくる」という思いを込めた。現在では、就労分野における日本語教育人材の研修カリキュラムの開発や、多文化コミュニケーションのための研修などを実施しながら、これまで市民活動ではアプローチできなかった企業への働きかけも始めている。私は、企業活動と市民活動を運営する二つの組織の代表という「二足の草鞋」を履いたわけであるが、それら総合し多文化共生が実現できるよう、多文化社会コーディネーターとして実践に取り組んでいるつもりである。

こうした中、Vivaおかざき!!が設立され10周年の年に起きたのが、新型コロナウイルスの感染拡大である。未知の感染症に全世界が混乱する中、それは私たちの団体の身近にも迫った。私たちが活動する愛知県が主たる産業とする製造業にも及び、再び外国人は軒並み解雇されることとなった。学校の休校、度重なる緊急事態宣言と目まぐるしく社会が動く中、契約打ち切り、退職を迫られる外国人に対し、まず実施したのはVivaおかざき!!による食糧支援(2020年6月~2021年6月)である。はじめは、じわじわと生活の困窮が及んできたころに緊急支援として外国人を対象にささやかな活動として実施した。活動を始めると、それを聞きつけた多様な支援団体、企業から協力依頼が舞い込み、たくさんの寄付をいただいた。そのおかげで一年間にもわたり、活動を継続し外国人やその子弟の生活を支えることができた。メディアにも多数取り上げられ、外国人が置かれている状況を一般にも伝えることができた。さらに、継続的に支援を実施したことで、外国人たちがどのような状況に置かれているかといった情報が予想以上に集まってきた。その中には、外国人の就労の状況や企業の状況等も含まれ、外国人がどのような労働環境に置かれているのか、次にどのような状況になるのか、手に取るように分かった。

そんな中、私が次に取組んだのは、株式会社link design labとして実施した「就労者に対する日本語教師研修」である。新型コロナ感染拡大前の2019年からカリキュラム立案は行っていたが、食糧支援を通じて寄せられる情報を通じ、外国人就労者・就労希望者に対する日本語教育の重要性に対する想いは、私の中でさらに強くなっていた。しかしながら、Vivaおかざき!!、株式会社link design labの両方を合わせても、スタッフは10人程度である。岡崎市にいる外国人は1万人強とはいえ、広く日本語教育を行うことはできない。それであれば、日本語教師の育成に力を入れ、就労に対する知見を持った日本語教師の活動支援を通じて外国人支援につなげようではないか、そう思った。オンラインを活用し、研修を実施した。現在、本研修を修了して就労者に指導することを念頭に置いた日本語教師は、東海地方だけでなく関東、関西、海外でも活躍している。これらの教師は、現在でも勉強会を結成し、私たちとも意見交換をしながらスキルを高めている。また、これらの実績から、企業から日本語教育カリキュラムの開発依頼が寄せられるなど、更なる一歩を踏み出すきっかけとなったと自負している。

課題を考えれば考えるほど、取り組むべきことは増えていくが、多文化社会コーディネーターという視点から「身の回りの課題を捉え、クイックに対応していく」、このことが周囲の信頼を獲得し、次の取組につながっていくように感じている。そうして、さらに活動が充実し、多文化社会コーディネーターとしての私の存在が社会的にも見えてくるようになると、立場も明確になり協力者も増えてきたように感じる。もちろん、全てが上手くいっているわけではないが、事業だけでなく複数の組織やその役割や強みを踏まえて、活動をコーディネーションすることを意識した。このことで、これまで取り組んできたことにも筋道が立ち、改めて団体の意義や目的についても考えられるようになってきた。私の原体験は就労者としての外国人に対する課題意識であるが、それが地域とのつながりづくり、子どもの教育、就労環境の整備などと多様なアプローチに広がった。一見すると目的は違うように思われるが、全ては「どんな背景の人も自分らしく生きていける多文化共生社会のため」と私の中では一貫している。

Vivaおかざき!!は、活動が岡崎市に留まらないものとなってきたことから、今年11月の法人化を機に「ViVarsity」と改称し、新たなステージに進みたいと考えている。設立当初の想いである「Viva‼」が「ダイバーシティ」につながるようにという願いを込めて、長年の活動の同志であるアルゼンチン人が提案してくれた名前である。この願いを大切にして、私としてこれからも精一杯取り組んでいきたい。

2021年12月16日 | Posted in TaSSK/WEBコラム, お知らせ | | Comments Closed 

関連記事