WEBコラム〈1〉青山 亨「多言語・多文化教育研究センターの活動を振り返って」

「多言語・多文化教育研究センターの活動を振り返って」

青山 亨

多文化社会専門職機構 副代表理事
東京外国語大学 大学院総合国際学研究院 教授

 

 

 私は東南アジアとくにインドネシアの前近代史を専門分野とする大学教員です。この私が多文化社会専門職機構の副代表理事を務めることになったのは、ひとえに東京外国語大学の多言語・多文化教育研究センターの活動との関わりからもたらされたものだと感じています。そこでこのコラムの場をお借りして、本機構の事業とも関係の深い、多言語・多文化社会専門人材養成講座と多文化社会協働実践研究・全国フォーラムの二つを中心にセンターの活動を振り返ってみたいと思います。

 東京外国語大学のセンターの活動は2006年度に始まる5年間の第1期、2011年度に始まる5年間の第2期、そして2016年度に始まる現在に分けられます。このうち第1期と第2期は文科省の概算要求特別経費に基づくプロジェクトの実施機関として活動を行いました。

 第1期の「多言語・多文化教育研究プロジェクト」の開始には、前史があります。2004年度に、外国につながる子どもたちを支援する学生ボランティア活動を支えるため、東京外国語大学は文科省の「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」を受託して、多文化コミュニティ教育支援室(現在のボランティア活動スペースの前身)を設置しました。その活動で得られた経験から、教育・研究・社会連携の3分野において日本の多言語・多文化化に関わる諸課題の解決に寄与することを目的とした組織が学内に必要であるという判断が生まれ、第1期のプロジェクトは始まりました。センターはその実施機関として発足しました。

 ちなみに、発足前年の2005年は、在日外国人の数が初めて200万人を超えた年であり、それにともなって在日外国人の出身地構成がかつてと比べて大きく変わったことを改めて印象づけた年でもあり、センターの発足は時宜を得たものでした。

 センター発足から2年めの2007年に、研究分野の2本の柱であった「協働実践研究プログラム」と「世界の多言語・多文化社会研究」が合同する形で始まったのが多文化社会協働実践研究・全国フォーラムでした。第1回のフォーラムは2007年12月1日と2日の2日間にわたって「多文化社会の課題に迫る!」をテーマに開催されました。この企画は、日本の多言語・多文化化に関わる実践者と研究者が集う場として好評を博し、「全国フォーラム」の通称で年1回のペースで開催され続けました。第1期には4回開催されています。

 社会連携分野では、2007年度に文科省の「社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム」を受託し、初年度に多文化社会コーディネーターを養成するためのプログラム開発を行い、2008年度と2009年度に「多文化社会コーディネーター養成講座」を開講しました。この講座からは両年度あわせて58名の修了生が生まれています。このプログラムの開発、講座の立ち上げと運営に中心となって関わったのがセンターのプロジェクト・コーディネーターを2期にわたって務めた杉澤経子さんでした。杉澤さんはセンターの養成講座の屋台骨を背負ってこられたと言っても過言ではないでしょう。

 第1期の最終年となった2010年度には、養成講座の場を、東京外国語大学が開催している市民講座であるオープン・アカデミーに移し、「多言語・多文化社会専門人材養成講座」の名称で開講しました。名称を改めたのは、多文化社会コーディネーター養成のコースに加えて、コミュニティ通訳養成のコースが新設されたためです。2010年度には多文化社会コーディネーターコースからは10名、コミュニティ通訳コースからは27名の修了生が生まれました。

 2011年度には、人材養成に焦点を当てた第2期「多文化社会人材養成プロジェクト」を開始しました。新年度が始まる直前の3月11日に起きた起きた東日本大震災では、外国人に対する多言語による情報発信にあたって、多くの方々の協力をいただき、センターも貢献することができました。第1期に育まれた日常時に活動するネットワークがあってこそ非常時に機能するという思いを強くさせた出来事でした。

 第2期では、第5回から第9回まで計5回の全国フォーラムを開催することができました。また多言語・多文化社会専門人材養成講座も引き続き開講しました。多文化社会コーディネーターコースは2011年度から2014年度までの4回、コミュニティ通訳コースは2011年度から2013年度までの3回開講され、それぞれのコースから合わせて43名と46名の修了生が誕生しました。また、2014年度と2015年度には専門人材養成講座の基礎科目を独立させ、受講対象を幅広くした「多文化社会論基礎」を開講し、66名が修了しました。

 プロジェクトには期限があり、かならず終わる時を迎えます。2期10年間にわたるプロジェクトは2015年度をもって終了しました。センターのプロジェクトとして実施された活動の中にはプロジェクトの終了をもって終結したものもありますが、その多くは形を変えて大学の内外で継続しています。大学の中に目を向けると、多文化共生に関わる科目が学生に人気のある授業として定着しましたし、学生ボランティア活動を支える組織も根付きました。センター自体は大学の多文化社会に関わる社会貢献を担う部門として再編され、言語文化サポーターの活動を通じて社会貢献を行っています。

 大学の外では、この多文化社会専門職機構が多文化専門職の育成と認定の機能を受け継ぎ、発展させています。立ち上げの時からセンターに関わってきた者の一人として、機構の活動にセンターが蒔いた種から生まれた新しい芽吹きを感じ取っています。今後も、機構の一員としてその成長に関わっていきたいと思っています。

2018年01月13日 | Posted in TaSSK/WEBコラム | | Comments Closed 

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